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医師・会社経営者・土地持ち・二世帯住宅オーナー 相続対策(相続税対策・争族対策)は各ケースで異なるが…
相続対策の必要な資産家には色々な状況・職業などの人がいるだろう。例えば、医師・会社経営者・土地持ち・二世帯住宅オーナーなどだ。
もちろん、それらの資産家にとっての相続対策(相続税対策・争族対策)は大きく異なるものであるが、逆に共通する部分というのもなくはない。
今回の記事では、医師・会社経営者・土地持ち・二世帯住宅オーナーを例にとって、各ケースごとの相続対策(相続税対策・争族対策)とそれぞれのケースで共通する相続対策について考えてみよう。
各ケースごとの相続対策(相続税対策・争族対策)
※それぞれのケースで共通する相続対策「毎年のコツコツ生前贈与(暦年贈与)」と「生命保険を活用した代償分割の準備」については、ケース説明の下に後述します。
ケース1 医師(病院経営など)の相続対策(相続税対策・争族対策)
会社経営者や土地持ち(不動産オーナー)とは若干異なる医師の資産内容
医師(病院経営など)の場合(の相続対策)は、会社経営者や土地持ち(不動産オーナー)と多少異なっている部分があるだろう。
というのも、医師の特徴として、他の企業オーナーや土地持ちなどと比べても金融資産が多くキャッシュリッチであることがあげられる。
医療法人の場合でも個人経営の場合であっても、医師は一般的に所得が高く、そのため金融資産が多い場合も多い。
土地が多く、現金資産が不足しがちな「不動産オーナー(土地持ち)」や、自社株の割合の高い「企業オーナー」と比べても金融資産の割合が高いということは、相続では、マイナスというよりもプラスだ。
しかし、相続人同士が争う「争族」のリスクはそれなりに高く、後継者がいる場合など、後継者とそれ以外の兄弟(相続人)との格差も生じやすいため、相続争いに発展するリスクもそれなりに高い。
もちろん事前の準備が不可欠だ。
金融資産の割合の高い医師が相続対策としてできること
そんな金融資産の割合の高い医師が相続対策としてできることを、生命保険の活用を含め少し考えてみよう。
一番の対策は、「毎年のコツコツ生前贈与(暦年贈与)」で地道にキャッシュ(金融資産)を減らしていく事だ。
これを聞いて多くの人は「たかが110万円か!?」と思う人もいるだろうが、徹底的に工夫して長期間かけて行う事で、相続資産の圧縮効果を最大限高めることができる。
この「毎年のコツコツ生前贈与(暦年贈与)」こそが、キャッシュリッチな資産家の相続税を節税するための相続財産圧縮の対策として最も王道的な方法であるだろう。
※「毎年のコツコツ生前贈与(暦年贈与)」については、ケース説明の下に後述します。
後継者(相続人のうちの一人)などがきまっていて資産の大半を相続させる場合は代償分割で対策を
また、病院経営を行っていて後継者(相続人のうちの一人)が決まっているような場合には、もちろん遺言書や信託などを用いて相続の準備などを行うことだろう。
そこでは、公正証書遺言などに病院関連資産を後継者に譲る事を明記することで後継者へ資産を承継する事ができる。しかし、これで争族対策までできているかというとそうではない。
この場合、後継者である相続人に資産の大半が相続されてしまい、後継者でない相続人から多くの場合不満が出るからだ。
そこで活用したいのが、「生命保険を活用した代償分割の準備」だ。生命保険を活用した代償分割を行う事で、後継者でない相続人から不満がでることを防止することができる。
※「生命保険を活用した代償分割の準備」については、ケース説明の下に後述します。
ケース2 会社経営者(中小企業オーナーなど)の相続税対策・相続対策
会社経営者(中小企業オーナーなど)の高齢化に伴って重要性を増す事業承継対策
事業承継に生命保険をどのように活用したらよいか?
日本全体の高齢化に伴って、日本の経済を支えてきた会社経営者(中小企業オーナーなど)も高齢化の段階を迎えている。
多くの法人では、後継者対策や、後継者が決まっている場合でも、その後継者への事業承継対策が重要となっているだろう。
事業承継には大きく分けて、「経営ノウハウの承継」と「経営資産の承継」という、知と物の2つの資産の承継が必要になるだろう。
「経営ノウハウ承継」については、早い段階から後継者を決め、専用の育成プログラムを準備し、長い年月をかけ、経営者としての資質を養っていく必要があるだろう。
また、経営ノウハウの承継と同様に、長い時間をかける必要があるが、「経営資産の承継」だ。
現在と経営者の相続発生までに相続対策を済ませておく
優良な法人などの場合、自社株式の評価が高かったり、事業用資産も多くあったりで、これらの資産が非常に多かったりする場合が多い。
経営者に相続が発生した場合は、その相続財産の8割以上の割合を占める場合も多く、相続時には分割が大変になりやすい。
相続人間などで争いが発生した場合は、自社株や事業用資産がバラバラになってしまう恐れもあり、法人経営を安定させるためには、それを防ぐことが最も重要なこととなるだろう。
経営者が子供ではなく従業員などの場合は、自社株の買い取り資金の面でさらに問題が大きくなる場合もあるため、事前の対策が必要だろう。
生命保険を活用することで「経営資産の承継」を円滑にする方法も
こういった「経営資産の承継」の問題を考える上で、有効な方法の一つとして、生命保険の活用があるだろう。
生命保険と遺言書を両方準備し、相続発生後の流れを後継者にレクチャーしておくことが必要だ。
大まかに言えば、上記の医師同様に資産を遺言書など(公正証書遺言・信託等)で後継者である相続人に相続させるようにしておき、大半の事業関連資産を後継者に相続させるのが良いだろう。
ここでも上記の医師同様に問題となるのが、後継者である相続人とそれ以外の相続人との相続資産の格差とそれから起こる争族問題だ。それを解消するために行いたいのが「生命保険を活用した代償分割の準備」だ。
生命保険を活用した代償分割を相続人間で行う事で、争族の大半を防ぐ事につながるだろう。
※それぞれのケースで共通する相続対策「毎年のコツコツ生前贈与(暦年贈与)」と「生命保険を活用した代償分割の準備」については、ケース説明の下に後述します。
ケース2 土地持ち(不動産オーナーなど)の相続税対策・相続対策
土地持ち資産家の相続税対策 アパート経営か?生命保険か?
将来、ますます確実性を増しているのは、相続税の増税だろう。
そういった点から考えて、多くの資産家の最大のリスクといえば、地震でもなく、円高でもなく、インフレでもデフレでもない。増税だろう。特に、相続税の増税は土地持ち資産家(不動産オーナー)の資産を直撃する最大のリスクになるだろう。
相続税対策としては、生命保険が活用できるが、地主などの土地持ち富裕層の場合、億単位の不動産を保有していても、現金資産はその数割もないという場合も多いようである。
そういった場合、現金が必要となる保険ではなく、アパート・マンション建設による相続税評価額の圧縮という方法がある。土地持ち富裕層の場合、アパート建設による相続税評価額の圧縮は確かに有効ではあろう。その理由としては、以下の2つがあるだろう。
- 保有する土地(ここではもともと更地であったと仮定)にアパートを建てた場合、「借家建付地」として評価するため、評価額が小さくなる。
- 保有する現金を使ってアパート・マンションを建築した場合、アパート・マンションは借家のため、借家権割合などに応じて固定資産税評価額を算定するため現金をそのまま持っておくよりも、評価額が小さくなる。
また、アパート・マンションを建築するために借金した場合は、借金した額が負債額となり、評価額から減額されるため、更に評価額は小さくなる。
不動産を活用した相続税対策(節税対策)にはリスクも多い
確かに、これらを見ると相続税の評価額を引き下げるためにはアパート・マンション建設は有効だ。しかし、リスクも多い。
まず、1つは事業としてのリスクだ。そもそも入居者が集まるか?駅が近いか?大学などの学校は近いか?賃貸物件をその地域に保有していて事業は成り立つのか?よく考える必要があるだろう。
これからの少子高齢化の人口動態を考えると、圧倒的に供給が需要を上回る状況になることは目に見えている。不動産はこのまま行くと余剰になる。(もうすでに余剰かもしれないが…)
もう1つは、借金をした場合における借金リスクだ。何かのきっかけで、借金が返せなくなった場合、土地はもちろんとられてしまう。相続税として、国に取られまいとがんばった結果がこうであれば泣くに泣けないだろう。
そんなことを考えると、事業性に問題があると感じた場合は、時価(取引価格)にたいして相続税評価額の低さ(ギャップ)が際立つ都心不動産に買い換えることも有効かもしれないだろう。地方や郊外の土地を売って、東京の都心(千代田区や港区)不動産に買い換える方法だ。
しかし、この方法には国税の制度変更(相続税評価方法等の変更)リスクが相当に大きい。必ずこの部分には変更(増税方向)が将来加えられるだろう。
不要な不動産を売却して現金を準備し生命保険で準備すること
以上考えてみたが、ある程度手間がかからなくて、リスクが低いのは、(抵抗があるかもしれないが)不要な不動産を売却して現金を準備し生命保険で相続税納税資金と準備することであるだろう。
先祖代々からの土地を手放すことに抵抗があるかもしれないが、下手な借金をすることなく1番リスクの低い方法でもあると思う。
また、不動産を相続する相続人とそうでない相続人のように、相続人ごとに相続する資産に格差が生じる様な場合は、争族を防止するため「生命保険を活用した代償分割の準備」が必要だろう。
※「生命保険を活用した代償分割の準備」については、ケース説明の下に後述します。
ケース3 二世帯住宅オーナー
二世帯住宅の大きなデメリット!?相続税の税制改正と自宅不動産の相続の問題
相続税の税制改正により、これまで相続税がわからなかったような世帯でも、住んでいる場所など(都心等)によっては相続税がかかるようになった。
その相続税の対策のために、親の自宅などに子供のいずれかが同居して、二世帯住宅とすることで「小規模宅地等の評価減」の特例を活用しようと考えている人も多いことだろう。
この対策自体、子供が1人しかいないような場合にとっては何の問題はないものだ。
ただし、子供が複数人にいるような場合は、親が死んでしまった後の遺産分割において、大きな問題となる可能性が高いデメリットも大きい方法なのだ。
問題となる不動産をもらった兄弟ともらえなかった兄弟の「不公平感」
例えば、東京・大阪の都心など、地価が高いようなところに不動産を持つような世帯で、かつ二世帯住宅を建築した人など、相続人である兄弟間において、もらった兄弟ともらえなかった兄弟での不公平感が生じやすい。
例えば、兄と弟の二人兄弟を例として考えてみたいが、兄は二世帯住宅を含めた不動産を相続しているものの、弟にとってはそれに見合った現金資産などをもらえていないような場合だ。
このような場合、「兄さんだけ不動産をもらってずるい。現金で法定相続分をよこせ。」のような争いに発展しやすい。
このような争いがこじれてしまった場合で、兄の方に現金資産がない場合は、最悪のこと不動産を売却して現金化しなければならなくなることが想定できるだろう。
生命保険を活用した対応策
このような相続争いを防ぐためには、終身保険などを活用して、代償分割の準備をしておいてあげることが必要だろう。
上記の例では、親は兄と一緒に二世帯住宅を建築する際に、終身保険などを契約して、死亡保険金受取人を不動産を相続する兄にしておく。
ここでは、「不動産を相続させる兄を死亡保険金の受取人にする」という点がとても重要だ。(決して弟ではない。そうした場合、代償分割が困難になってしまう。)
そして、実際の相続になった際は、兄が死亡保険金を受け取った後、兄から弟へ代償分割の代償交付金として支払う。
※「生命保険を活用した代償分割の準備」については、ケース説明の下に後述します。
相続税の問題が回避できても、相続争いの問題は回避できない
相続税の問題を回避するために、二世帯住宅を建てたとしても、それで相続税の問題は回避できるかもしれないか、相続争い(争族)の問題は十分に回避できているとは言えないだろう。
やはり、相続税軽減のために、自宅の土地に二世帯住宅を建て、一部の子供だけに遺してあげることは問題が大きいのだ。
自宅不動産が高額になるエリア(東京・大阪など)では多くの場合、相続資産の大半が自宅不動産となる場合も少なくない。
相続時に資産を円滑に分割するためには、保有する不動産に見合うだけの現金資産が必要となってくるが、簡単に出てくる恵まれた家庭はそう多くはないだろう。
そのような際に、生命保険を使用した代償分割の手段は有効となってくる。相続税を支払う人の割合が高くなればなるほど、代償分割の手法はさらに見直されることになるだろう。
※「生命保険を活用した代償分割の準備」については、ケース説明の下に後述します。
それぞれのケースで共通する相続対策1 「毎年のコツコツ生前贈与(暦年贈与)」
「毎年のコツコツ生前贈与(暦年贈与)」
相続資産を減らし、相続税を節税するための相続税対策として一番有効、または一番王道であるのが、「毎年のコツコツ生前贈与(暦年贈与)」だ。
キャッシュ(現金)が多い人は、相続に備えてこの「毎年コツコツと暦年贈与する」ことが一番効果的であったりする。
贈与の年数が長ければ長いほど、または、対象となる相続人の数が多ければ多いほど、より効果も高い。
「毎年のコツコツ生前贈与(暦年贈与)」のポイントとやってはいけないこと(注意点)について確認しておこう。
「毎年のコツコツ生前贈与(暦年贈与)」のポイント
相続税対策の基本とも言える、基礎控除を活用したコツコツ贈与であるが、確実に行うためには気を付けるべきポイントも多い。
必ず専門家に確認をとる必要があるが、簡単にまとめると以下のとおりだ。
ポイント1 贈与者と受贈者の贈与契約書の「実際」の取り交わしが必要
贈与は契約のため、もちろん契約書がなくても成立はする。しかし、契約書がなければ第三者に証明することは難しくなるだろう。
必ず、贈与者と受贈者の間で贈与契約書の「実際」の取り交わしが必要だ。親だけで勝手にでは絶対に駄目である。
ポイント2 受贈者が管理する銀行口座に振り込むことで記録に残す
例えば現金を贈与するような場合、現金を手渡しするよりも、銀行で高い手数料を払ってでも振り込みをしてお金を渡した方がよい。
双方通帳に記帳することで確実に双方がお金をやり取りした記録が残るからだ。
ポイント3 110万円を超える贈与をあえて行い贈与税の申告書をあえて提出する
110万円を少し越える程度の贈与を行いあえて、納税の控えや領収書等を証拠として保管しておくのもいいことだ。
110万円までであれば原則申告も不要で手間もかからないが、あえて300万円までの金額に贈与額をアップし申告するという考えもあるだろう。理由は以下のようなものだ。
理由1 贈与したという証拠を「公(おおやけ)」に作れる
仮に110万円以下の贈与を毎年行い、申告をしなかった場合しっかりとその証拠を残しておかなければ、相続が発生したときに、最悪その贈与自体が認められないというトラブルにもなりかねない。
そうならないためにあえて110万円以上の、申告が必要な金額を贈与して、しっかりと申告を行い、贈与税も払ってしまう。
国も税金を受け取っているのだから「その贈与はなかった」ということはなかなかなりにくい。これ以上確実な証明方法ないからだ。
理由2 300万円以下であれば税率も比較的低く税負担も軽い
(2013年4月現在)1,500万円を越えると50%になるなど、一般的に税率の高い贈与税であるが、200万円以下であれば10%、300万円以下でも15%と、300万円程度までであれば税負担もそれほど重くない。
110万円の倍以上の額を贈与できるので贈与できる総額を増やすことができ、贈与のスピードを上げられるのもメリットだ。
相続税の税率が贈与税の税率を超える範囲内であれば、贈与税を払ってでも生前贈与を行う価値はあるだろう。
「毎年のコツコツ生前贈与(暦年贈与)」でやってはいけないこと(注意点)
生前贈与するにあたってもやってはいけないこともある。そのやってはいけないことについて考えてみたい。
やってはいけないこと1 贈与を受ける側の人が贈与の事実を知らない
多くの人は、子や孫の通帳などを勝手にこっそり作り、そこに贈与する金額を振り込み、申告が必要な場合は申告をする、という人もいるだろう。
贈与する相手方である子や孫にその事実を知らせると、お金を無駄に使ってしまうことなどを心配して、何も知らせない場合もあるが、これではたとえ申告した場合でも、贈与が認められない可能性が高いので注意が必要だろう。
そもそも贈与は、民法549条に「贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」と規定されているため、相手方が贈与を了承して、「もらいます」と意思表示をしなければ、贈与しても贈与としての行為に当てはまらないのだ。
なお、贈与の意思表示については、口頭でも有効とされているが、証拠が何も残らないため、贈与に関わる契約書を作成することで、法的な効力も確かなものになる。
贈与の都度(毎年なら毎年)書面をお互いで交付するべきであろう。
やってはいけないこと2 受贈者(贈与を受ける相手方)の銀行通帳、印鑑等の管理を贈与する側がやること
上記1と同じ理由であるが、もちろん通帳や印鑑などの管理も贈与を受ける相手自身が行っていなければならない。
贈与の事実を知らなかったり、通帳等の管理を、贈与する側が行っている場合は、贈与が認められず、名義預金として相続財産扱いとなるので、贈与しようとした行為自体が無意味となってしまうだろう。
また、銀行口座の住所や名義(旧姓など)についても時の経過により変更されている場合は、最新のものに名義が変更されていることなども当然注意することが必要だ。
生前贈与でやってはいけないこと3 毎年同じ時期に同じ額を贈与すること
毎年同じ時期に、同じ額を贈与することは、贈与する側にとっては簡単だが、それも避けたほうが無難だろう。
なぜなら、連年贈与扱いとされる可能性があるからだ。連年贈与とは、一定額を贈与するとあらかじめ決めていて、それを一定の年数で分割して贈与することだ。
連年贈与扱いと税務署に認められてしまうと、贈与の総額に対して、年金の評価額を基に、贈与税が課税されてしまうこともありうる。
もちろん、多くの人は、贈与の初年から、合計1,000万円を100万円ずつ10年に分けて贈与しようかとか考えていた訳ではなく、たまたま100万円を10年間続けて贈与してしまった、のようなものがほとんどだろうから、連年贈与のことはあまり気にする必要はない場合もあるが、念には念を入れて避けたほうが無難だろう。
目的や金額によって贈与の方法を工夫する
毎年110万円の金額であれば申告をする必要はないが、数百万円程度で税率が低い金額の範囲をうまく計算すれば相続税を支払うよりも税負担軽くなる場合もあるため、あえて110万円を超える金額を贈与して申告するというのも一つの手だろう。
上記のとおり、贈与税をあえて申告することは、契約書の取り交わしと一緒に行うことで、贈与したことの証拠にもなるので、その点もメリットだろう。また、お金の受け渡しについても、手数料はかかるものの、お互いの通帳に記録が残るため、振り込みにしておくとよいだろう。
その他、場合によっては、一般的な贈与ではなく、「相続時精算課税制度」や「教育資金の一括贈与に係る非課税措置」(平成25年4月現在)を活用したほうがよい場合もあるだろう。
そういったものを活用しながら、目的や金額によって、贈与の方法を工夫することが必要だろう。
それぞれのケースで共通する相続対策2 「生命保険を活用した代償分割の準備」
「争族」対策のための「生命保険を活用した代償分割の準備」
会社経営や病院経営において後継者(相続人のうちの1人)がいる場合や、多くの不動産を特定の相続人に相続させる場合、必ず行っておきたいのがこの「生命保険を活用した代償分割の準備」の対策だ。
この対策は、相続資産の圧縮というよりも「争族」対策のためだ。
生命保険を活用した代償分割の例
例えば、病院経営の医師を例にして考えてみよう。
開業医の父親と、子どもである3人の相続人がいたとする。そのうちの1人が後継者、その他の2人は後継者ではなかったとする。
資産の多くを遺言(公正証書遺言・信託)で後継者に相続させるようにしておき、同時に生命保険の死亡保険金も後継者に100%受け取らせるようにしておく。(後継者以外の相続人が受取人ではいけない。)
このような資産配分の場合、通常は病院の資産などが後継者に集中してしまい、不公平だと感じた他の相続人は不満を漏らし、相続争いに発展する。
それを防ぐために代償分割資金を後継者へ生命保険で遺してあげるようにする。親の財産の大半を特定の後継者が受け取る代わりに、多くを受け取らないその他相続人へ、その生命保険金を受け取った「後継者」から渡すのだ。
この「後継者」からというのがポイントとなる。
このように、生命保険の死亡保険金を代償分割のための資産として、後継者は活用するのだ。
生命保険の死亡保険金を後継者に遺してあげらることで、後継者は代償分割のための資金を準備することができ、相続を円滑に進めるためにそれを使うことができるだろう。
なお、生命保険の死亡保険金は、みなし相続財産ではあり相続税が課税されるものの、「受取人固有の財産」として相続財産ではないため、受取人である後継者が自由に使うことができる。
過去の判例なども参考にすると過度に他の相続人の遺留分などを過度に侵害しない限り、特定の相続人を受取人として多くのお金を死亡保険金としてのこしてあげることも可能だ。
それを代償相続(資金)として、他の相続人に後継者から分けてあげられるようにするとよいのだ。(繰り返すが、代償相続を行う場合は、直接後継者以外の相続人に生命保険金受取人を指定してはいけない。)
毎年贈与したお金で相続人(子など)に生命保険を契約させる事も有効な手段
毎年贈与したお金で、代償分割の代償交付金を支払う必要のある相続人(子など)に生命保険を契約させる事も非常に有効な手段だ。
具体的には、毎年贈与したお金で代償分割の代償交付金を支払う必要のある相続人に終身保険などの生命保険を契約させるのだ。
この場合、契約者は相続人(子など・受贈者)、被保険者は被相続人(親など・贈与者)、死亡保険金受取人は相続人(子など・受贈者)としておくことだ。
そうする事で、被相続人が死亡すると死亡保険金が代償交付金を支払う必要のある相続人(子など)に支払われ、その相続人は代償交付金を他の相続人に支払ったり、相続税の支払いに活用する事ができるだろう。
争族対策は長年かけてじっくりと行う
このように「毎年のコツコツ贈与」と「生命保険の活用」を使用する方法は、相続対策のための有効でわかりやすい方法だろう。
しかし、他にも方法はあるだろう。それぞれのケースごとの最適な争族対策を行うためには、税理士などの専門家と相談しながら、長い時間をかけて行っていくことが必要なことだ。